プロジェクトストーリー
2024年、佐渡金山が世界遺産に登録され、再び脚光を浴びるようになった佐渡島。いま、この佐渡島の観光を復活させようと、地域一体となったプロジェクトが進行しています。熱い想いを抱き、その実現に向けて挑む佐渡島活性化プロジェクトの最前線をご紹介します。
田中 幸二Tanaka Kouji
1992年入行
コンサルティング事業部で、佐渡エリアを担当。2023年から佐和田支店に駐在し、佐渡島の面的再生プロジェクトを本店と連携して行っている。佐渡市出身。
桑原 康彰Kuwabara Yasuaki
1995年入行
2023年7月に佐和田支店の支店長に着任。佐渡市出身。
橘 克弥Tachibana Katsuya
2016年入行
2024年4月赴任。佐渡金山のある相川地区を担当。趣味は佐渡おけさの練習。魚沼市出身。
豊かな自然や食文化を誇る日本海側最大の離島。
江戸時代に全国から金を求めてきた人々が生み出した独自の文化や風習など、さまざまな魅力を持つ。
田中:第四北越銀行では以前から、新潟県の地方創生に力を注いできました。その一環として、佐渡島についても2021年頃から、地域創生の候補地域として名前が挙げられていました。大きなきっかけとなったのは、2021年4月、環境省による「脱炭素先行地域」に佐渡市が指定されたことです。これは、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、地域資源を最大限活用しながら脱炭素と地域課題の解決を同時に実現する取り組みです。第四北越銀行はこの取り組みを金融機関の立場から積極的に支援することにしました。
田中:まずは行政である佐渡市に地域課題について話を聞くところからスタートしました。すると、様々な課題があることが見えてきました。
桑原:佐渡市が特に頭を悩ませていたのは、観光客数の激減でした。佐渡島を訪れる観光客は1991年の年間123万人をピークに降下し続け、2023年には年間44万人と、1/3近くにまで減ってしまっていたのです。
田中:観光客の減少は、島内の高齢化や人口減少と無関係ではありませんでした。佐渡市の人口は、2000年に7万人でしたが現在は5万人を割るほどまで減少しています。そのため、事業の継続を諦めて廃業する宿泊施設が相次ぎ、島内を移動するタクシーやバスの運転手も高齢により少なくなり、観光客を受け入れるサービス供給量が不足する事態に陥っていたのです。
橘:観光業を生業としてきた島にとって、コロナによる観光スタイルの変化も大きな打撃となりました。団体旅行の大幅な減少により島内にあった2つの大型の宿泊施設が倒産を余儀なくされ、結果的に島内で受け入れられる宿泊定員数が10%近く減ってしまっていたのです。
田中:こうした苦境の中で、「なんとしても、この観光業をもう一度復活させたい」というのが行政の方々の想いだったのです。
田中:はい。この事業は、国の補助金を活用し、宿泊施設の改修やDX化など観光客を呼び込める施策に地域一体となって取り組み、観光地を再生していくものです。各地域から出される計画が承認されてはじめて国の補助金支給対象となるため、まずは計画の策定が重要になります。第四北越銀行は、佐渡市や佐渡観光交流機構(DMO)と協力し「観光地マスタープラン」の策定を行いました。
桑原:また、島内に3カ所ある第四北越銀行の各支店の支店長とも打ち合わせを重ね、連携をはかっていきました。お客さまに最も近い各支店の営業担当者が、島内の宿泊事業者に主旨を説明し、「お客さまに喜んでもらえる高付加価値な宿をつくりにいきましょう」と説いて回ったのです。
橘:佐渡島には、大型の宿泊施設から民宿などさまざまな施設があるのですが、皆さん「待ってました!」と言わんばかりに、主旨に賛同してくださる方が次々と増えていきました。
桑原:結果、多くの事業者に対して、事業計画策定や補助申請のサポートを行うことに。延べ40件・40億円が補助対象となりました。第四北越銀行としても、3年間で延べ18件・約12億円の融資につながっていきました。
橘:私は、佐渡島のなかでも金山のある相川地区を担当しています。その相川で、民宿を営んでいるお客さまは、建物の外観をキレイにするだけでなく、サウナ付きのロッジを新たに2棟建築することを計画しました。海と夕陽の絶景が見られるロッジを1棟まるごと借りられるようにしたのです。このお客さまは、先代から事業を引き継いだばかりのタイミングでした。大切な時期に、リノベーションできたことで、「一段ギアをあげることができ、新たなスタートラインをきることができました」と喜んでいただいています。
田中:ビジネス客向けに施設を改修した民宿もありました。佐渡島は、意外にビジネス客も多いのです。月曜日の朝、本土と島を結ぶ佐渡汽船から出てくる人たちの中には、スーツを着たビジネス客が大勢いらっしゃいます。そうした方々のためにコワーキングスペースを整備した民宿もありました。
橘:印象的だったのは、近隣に点在する複数の古民家をまとめて、一つの宿泊施設として運営する事業者です。経営者の方が「宿泊だけでは、街全体がよくならない」と、「まちごとホテル」というコンセプトのもと、金山にゆかりのある相川地区全体を観光客の拠点となるように企画した宿泊施設です。地域の玄関口にある宿泊施設を入口として、宿泊だけではなく商店街や観光スポットなどへ周遊できるよう、地域をつなぐ役割を担っています。私ども第四北越銀行はその宿泊施設に対し、補助金の申請サポートや当行以外を含めた複数の金融機関の融資の調整などをさせていただきました。
田中:実はこの経営者の方は、あるプロジェクトのため島外から移住され、相川地区にほれ込んで事業を立ち上げました。当初は反対する地元の方もいらっしゃったのですが、「この魅力あふれる相川を100年先の未来まで残していきたい」という想いや、地域の商工会の青年部の方たちと積極的に交流される姿勢が伝わり賛同者が徐々に増えていったのです。
桑原:ところが、融資の審査が進み、ようやく決定となる直前に、事業運営を担うホテルの運営会社との契約が白紙になってしまったと経営者の方が報告に来られました。この状況では融資は難しいです――そうお断りしようと思ったのですが、実はそれまでに多くの地域のお客さまから「あの人は一生懸命やってるから第四北越銀行には是非応援してほしい」というお声をいただいていました。どうやって事業を運営していくのかを経営者の方ととことん議論をして何とか方向性を見つけ、同時にどんな形であれば資金面の支援が可能なのかを支店内や本部も巻き込んで徹底的に考え、最終的には日本政策投資銀行との協調融資や保証協会との連携によって、何とか資金調達の目処をつけることができました。
老舗の大型ホテルの客室を大幅リニューアル
サウナ付きのロッジを新設
古民家を有効活用しながら、まちごとホテルへ
桑原:はい。完成したタイミングで、新潟県内の新聞社やテレビ局を呼んで、リノベーションした施設を巡る紹介ツアーを実施し、大々的に県民の皆さまへ披露することができました。
田中:リノベーションの効果はすぐに現れました。2023年春にオープンした宿泊施設のゴールデンウイークの稼働率と客単価を調査したところ、稼働率は軒並み大幅上昇しており、、中には倍増したところもありました。また、宿泊単価については、平均で2割もアップしていました。
橘:大型の宿泊施設の場合、宿泊単価だけでなく、食事やドリンク、アクティビティなどの利用率が上がったことも宿泊単価が上がった要因の一つです。まさに、おもてなしのレベル感が上がったことが、結果に結びついたのだと思います。
田中:私たちは、こうした観光業への支援だけでなく、佐渡島で新たに起業を考えている方々にもサポートを行っています。例えば、起業家を支援する「NEXT佐渡」という組織と連携し、新たに起業したいという若者も支援しています。例えば、カフェをオープンさせたいと佐渡島外から移住してきた方に対して、助成金の申請サポートと開業資金の融資をさせていただきました。他にも佐渡島の産業を育てるために、さまざまな取り組みを行っています。
橘:私は、地域の方から愛される関係づくりが大切だと感じています。いま私は、週に一度、地元の方々と一緒に佐渡おけさの練習に励んでいます。まずは地元の方々から信頼され、「橘さんに、こんな話をしてもあれだけどさ」とちょっとしたことでも気軽に相談していただける関係になりたいと思っています。支店長はいかがですか?
桑原:このプロジェクトを通して宿泊施設が増える一方で、飲食店やバスやタクシーなどの二次交通が少ないなど、まだまだ課題はたくさんあります。この佐渡島という地域は、地元の方との結びつきが特に強いエリアだと感じています。残された課題に対して、地元の方と話し合いながら、解決方法を模索していきたいと思っています。第四北越銀行でも、橘さんのように、地域の方と溶け込もうとする人が増えるとうれしいですね。
桑原:何をもって事業が成功するか見極めるのはとても難しいですね。ヒト・モノ・カネのうち、かつて銀行はモノ=担保を重視して融資を判断していました。ですが、いまは事業を動かしていくヒトや組織が重要視されるようになってきています。先ほどの古民家を活用した宿泊施設の場合も、以前の銀行であれば「古民家は担保として価値のないもの」とみなされていましたが、事業を立ち上げるお客さまの想いや戦略によって、立派な経営資源となり、ひいては地域の観光資源にもなるのです。そうしたお客さまの志に正面から向き合い、地域に対する熱い想いをもって支援できるのは地方銀行、第四北越銀行ならではだと感じています。
田中:銀行は、そもそも預金を集めて融資をすることを生業としています。ですが、今の時代ただ「お金を借りてください」というだけではなく、自ら事業を提案する姿勢も必要だと思います。例えば、「佐渡島にこういういうものがあったらいいよね」とアイデアを出して、地元の方と一緒になって実現していく――。そうすることで、地域に新しい産業をつくっていくことができると思っています。
そのためには、地域のために新しい発想で考え抜くこと、それこそが地域経済の発展に貢献し続けるという経営理念を実現する方法ではないかと思っています。
※所属は取材当時のものです